こう見た!本が好き!2019年1月ランキング
海外文学が多いのが「本が好き!」ランキングの特徴ですが、とくに『ライ麦畑でつかまえて』や『愛されたもの』のように古典作品が多いのが素敵です。レビューを通して、現代文学も古典文学も親しんでゆけたらとても楽しいですよね!
三宅香帆の今月の1冊『ライ麦畑でつかまえて』
書籍:『ライ麦畑でつかまえて』
(J.D.サリンジャー,野崎孝(翻訳)/白水社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/1796/
選書理由
現在、作者のサリンジャーの半生を描いた映画『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』が公開中。タイムリー! と思って選んでみました。人生で一度は読みたい、青春小説です。
ブックレビュー
思春期の子どもたちが妙にイライラするのは、自分が変わってゆくその過程を誰もわかってくれないからだ。
そもそも若さとは自分で自分のことがよく分かっていないことだから、彼らは自分に色々な面があることを許せない。
一日中雨が降っただけで憂鬱になり苦しむ自分にのたうちまわり、しかし次の日はけろっと晴れやかな気分になって世界中のことが好きだと思う。
ある日突然、今までの自分がいかにアホだったかを思い知り、急にちがった自分になる。もうそんなことしてられない、と決意する。
気分はつねに変化し、意志も刻々と変わってゆく。
だけど彼らは「もっと自分は一貫した、こういう人間のはずだ」という思い込みからなかなか逃れられず、自分の見たくない一面に耐えられない。自分はこんな人間じゃない、と苦しむ。
そのある種の潔癖さを、私たちは「思春期」と呼ぶ。
しかし、周りの大人は誰もその変化をわかろうとはしない。なぜなら大人は思春期じゃないから。子どもにそんな変化が起こっているなんて夢にも思わないからだ。
思春期の子どもたちはそのギャップにイラつき、「大人なんて」と吐き捨てる。
『ライ麦畑でつかまえて』くらい、思春期の子どもが大人にイラッとくる感覚をそのまま表現した小説を、私はほかに知らない。
主人公のホールデンはまぎれもない思春期なのだけど、それはその潔癖さに由来する。きっと私が彼に「他人を愛するとか許すとかもっとあるでしょ」と説いたところで、自分の変化をわかろうともしてくれない他人に用はない、と睨まれてしまうだろう。
「若いなー」というひとことで片付けるには、その鋭さはちょっと、あやうい。
しかしホールデンと同じように、日々なにかにイライラしているけれどそのやり場がない、だれも分かってくれないと膝を抱える思春期の子どもたちは、『ライ麦畑でつかまえて』を読むことできっとその孤独をすくわれるんだと思う。
ここに自分がいる、と思う少年少女がい続けるから、この小説はたくさんの人に読まれ続ける。
世界中のベストセラーだけど、この小説は、読むたびかなしくなる。きっとまだこの小説を必要とする孤独なだれかが、たくさんいるのだ。
『ライ麦畑でつかまえて』を読んだ人が次に読むべき本
『フラニーとズーイ』
書籍:『フラニーとズーイ(新潮文庫)』
(J.D.サリンジャー,村上春樹(翻訳)/新潮社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/215085/
〈おすすめポイント〉
『ライ麦畑でつかまえて』と同じ作者による、とある兄妹を主人公にした青春小説。「やりたいことがそこにあるのに、なんだか手を伸ばすことに躊躇してしまう」……そんな葛藤を抱えるあなたにおすすめしたい、青春の鬱屈と祈りの物語。
『三四郎(新潮文庫)』
書籍:『三四郎(新潮文庫)』
(夏目漱石/新潮社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/9926/
〈おすすめポイント〉
日本の青春小説といえば? これではないでしょうか。女の人は何考えてるかわかんなくて、自分は背伸びしたいのにできなくて、なりたいものになれなくて。いつまでたっても思春期――いや「若さ」でしょうか――の取り扱いは難しいですね。
三宅香帆さんのプロフィール
1994年生まれ。高知県出身。
京都大学大学院人間・環境学研究科に在籍中。
大学院にて国文学を研究する傍ら、天狼院書店(京都天狼院)に開店時よりつとめた。
2016年、天狼院書店のウェブサイトに掲載した記事「
著書に外国文学から日本文学、漫画、人文書まで、
Twitter>@m3_myk
cakes>
わたしの咀嚼した本、味見して。
https://cakes.mu/series/3924
Blog>
https://m3myk.hatenablog.com/
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