月間ブックレビュー 三宅香帆の今月の一冊〈2018年12月月間人気書評ランキングより〉

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こう見た!本が好き!2018年12月ランキング

ニュー・アカデミー賞候補の現代海外文学から、与謝野晶子さんの歌集、朝井リョウさんの小説に至るまで……古今東西の本をかけめぐるランキングです。古いものも新しいものも一緒に楽しめるのが、読書のいいところですよね。個人的に注目したいのは9位の『クリスマス・カロル』。クリスマスの話がランクインしてるのが12月らしくて素敵です!

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三宅香帆の今月の1冊『ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」はなぜ傑作か?―聖書の物語と美術』


書籍:ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」はなぜ傑作か? 聖書の物語と美術』
(高階秀爾/小学館)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/272685/

選書理由

読書以外の趣味を聞かれれば、美術館に行くことだと答えたいのですが、行くたびに「自分の知識が足りないよ~!!」と感じちゃうんですよね。というわけで、絵画の知識がつく本は基本的になんでも大好きです。知識があれば美術館はきっともっと楽しくなる!

ブックレビュー

聖書と絵画。
切っても切り離せないふたつの文化。
西洋の展示をおこなう美術館へ行くと、必ずといっていいほどキリスト教のテーマを見つける。十字を背負ったキリストはもちろん、青い衣をまとうマリア、手に持たれるリンゴの実。それらのモチーフを「あ、キリスト教だな」とは分かっても、細部の物語は実はあやふやなまま終わっていたりする。

この本は、そんな「なんとなくキリスト教のことも絵画のことも知ってるけれど、細かいエピソードを絵画にあてはめて解釈できるほどじゃない」読者(私だ!)にぴったりの西洋絵画入門書。

なぜ『最後の晩餐』の絵画のキリストはすこ~しだけ口を開けているのか?
なぜ旧約聖書に描かれるダビデは少年なのに、有名なダビデ像は青年なのか?
なぜ受胎告知の場面のマリアの膝には、本がひらかれているのか?

言われてみればうずうずと気になってしまう疑問たちが、本書では「決まった場面を描く宗教画であっても、実は作家の解釈による影響が大きい」という事実とともに語られる。
そう、同じ聖書の場面を描いても、意外と作者がどの瞬間を切り取るか、どのような解釈でもってその場面を描くか、作者による裁量は大きいのだ。

面白いなと思ったエピソードが、ビアズリーの絵が有名な「サロメ」の話。
私の中でのサロメといえば、愛する男の首が欲しい! と狂気と妖艶の狭間で踊る女性。
だけど本書によれば、実は新約聖書にサロメという名はなく、ただへロディアの娘という記載のみだったのだとか。ヨハネの殉教のほうがよっぽど重要なエピソードで、サロメは母親にそそのかされた無邪気な少女、というキャラクターだったという。
しかしティツィアーノやモローといった諸作家は、サロメのエピソードを気に入ったのか、母親を描かずむしろヨハネの首を皿にのせて微笑むサロメの姿ばかりに焦点を当てる。これらの絵画から影響を受け、有名な戯曲『サロメ』をオスカー・ワイルドが創作するのだ。
ワイルドはてっきり聖書のサロメ像をうつしとったのだと私は思い込んでいたけれど、実はかなり創作の度合いが大きく、有名なヨハネの首への口づけもワイルドが付け足した場面だったらしい! 驚いた。
そして戯曲『サロメ』の英訳版につけたビアズリーの挿絵が、完全に私たちのサロメ像をつくった、というわけだ。
私たちの見ている「聖書」のイメージは、実は意外と、歴代の芸術家たちの解釈を通したものでしかない。だからこそ芸術家たちが何を見ていたのかを、もっと知りたい。
美しい絵画に隠された芸術家の目を、私たちは本書を通して知ることになる。

『ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」はなぜ傑作か?』を読んだ人が次に読むべき本

『イメージを読む(ちくま学芸文庫)』

書籍:イメージを読む
(若桑みどり/筑摩書房)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/52507/

〈おすすめポイント〉
西洋絵画の研究に興味を持ったあなたにぜひ読んでほしい、スリリングな芸術史入門。大学の講義を聞いているような、エキサイティングな語りに注目!

『真珠の耳飾りの少女(白水Uブックス)』

書籍:真珠の耳飾りの少女
(トレイシー・シュヴァリエ,木下哲夫(翻訳)/白水社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/114461/

〈おすすめポイント〉
映画化もされた、フェルメールの名画をもとにした小説。ひとつの恋愛小説としてもすぐれているし、17世紀オランダの風景まで見える当時の風俗描写も必見。あの有名な絵を見る目が、少し変わるかも。

三宅香帆さんのプロフィール

1994年生まれ。高知県出身。
京都大学大学院人間・環境学研究科に在籍中。
大学院にて国文学を研究する傍ら、天狼院書店(京都天狼院)に開店時よりつとめた。
2016年、天狼院書店のウェブサイトに掲載した記事「京大院生の書店スタッフが「正直、これ読んだら人生狂っちゃうよね」と思う本ベスト20を選んでみた。 ≪リーディング・ハイ≫」が2016年年間総合はてなブックマーク数 ランキングで第2位に。選書センスと書評が大反響を呼ぶ。
著書に外国文学から日本文学、漫画、人文書まで、人生を狂わされる本を50冊を選書した『人生を狂わす名著50(ライツ社)がある。

Twitter>@m3_myk
cakes>
わたしの咀嚼した本、味見して。
https://cakes.mu/series/3924
Blog>
https://m3myk.hatenablog.com/

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