月間ブックレビュー 三宅香帆の今月の一冊〈2018年8月月間人気書評ランキングより〉

連載にあたって

こんにちは。本が好き!編集部東郷です。
突然ですが、本が好き!に投稿されるレビュー数ってどのくらいかご存知でしょうか? その数、月間約2000~2400本。その中で会員からの投票により決定する月間人気書評ランキングは、本が好き!でその月にどのような本が読まれ、楽しまれているのかを表す「読書の指標」といえる存在です。次の一冊にどんな本を読もう?と参考にされている方も多いかと思います。

今回、月間人気書評ランキングの番外編として、「本は食べもの」と公言する愛読家で、文筆家の三宅香帆さんにブックレビューを連載していただくことになりました。

三宅さんといえば、『人生を狂わす名著50』(ライツ社)を2017年に刊行された、現役女子大学院生。「ブックオフに開店と同時に入り浸って不審な目で見られる小学生だった」という三宅さんの目線でみた本が好き!ランキング評、そして月間人気書評ランキングの中から、もっとも気になる一冊を選んでレビューを書いていただきます。

どうぞお楽しみください。

三宅香帆さんのプロフィール

1994年生まれ。高知県出身。
京都大学大学院人間・環境学研究科に在籍中。
大学院にて国文学を研究する傍ら、天狼院書店(京都天狼院)に開店時よりつとめた。
2016年、天狼院書店のウェブサイトに掲載した記事「京大院生の書店スタッフが「正直、これ読んだら人生狂っちゃうよね」と思う本ベスト20を選んでみた。 ≪リーディング・ハイ≫」が2016年年間総合はてなブックマーク数 ランキングで第2位に。選書センスと書評が大反響を呼ぶ。
著書に外国文学から日本文学、漫画、人文書まで、人生を狂わされる本を50冊を選書した『人生を狂わす名著50(ライツ社)がある。

Twitter>@m3_myk
cakes>
わたしの咀嚼した本、味見して。
https://cakes.mu/series/3924
Blog>
https://m3myk.hatenablog.com/

こう見た!本が好き!2018年8月ランキング

正直、たいへん渋いラインナップで驚きました! ひゃー、モームやカフカが「ランキング」というものに登場するところをはじめて見た、と恐れ入りましたね。しかもそのほかも海外SF文学や芥川賞受賞作品、果ては宮本輝ってそんな! 「もっと分かりやすそうな本が選ばれないの!?」と目を丸くしてしまいました。だけど考えてみれば、書評って「語りたくなる」ことを基準に本を選ぶから、分かりやすくない本のほうが選びやすいんですよね。

本が好き!2018年8月月間人気書評ランキングはこちら

三宅香帆の今月の1冊『後宮小説』


書籍:後宮小説
(酒見賢一/新潮社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/10142/

選書理由

私にとって、「書評したくなる本」とは「どうしてもこの本を人に読んでもらわねば!」「どうしてもこの本について語りたいのだ!」という欲望を掻き立ててくれる本です。そんなわけで、ランキングの中でもっとも「欲望掻き立て系」の本を選んでみますと、こちらの小説になりました。『後宮小説』くらい「みんなもっとこの小説を知ってくれよ! すごいんだから!!」と思わせてくれる本は、ちょっとなかなか見つからなかったです。

ブックレビュー

おおお、と読んでるうちに口角があがってしまう「すっとんきょう小説」です。
ちなみに「すっとんきょう小説」という呼称は私がいま作りました。すっとんきょうな設定、すっとんきょうなキャラクター、すっとんきょうなストーリー。そしてなによりそれらをすべてきちんと統一する小説家の腕力。ファンタジーでもSFでも歴史でも幻想でもない、唯一無二の小説。そんなジャンルを私は勝手に「すっとんきょう小説」と呼んでいます。
今になってやっと森見登美彦、万城目学といった「すっとんきょう小説」の書き手も増えてきましたが、きっと、その元祖はこのお方です。
酒見賢一。

デビュー作にして最高傑作『後宮小説』を読まずして、この稀代のすっとんきょう作家のことを語ることはできないでしょう。
「腹上死であった、と記載されている。」という有名な書き出しを見ただけで、もう天才の所業と分かる『後宮小説』。舞台は「素乾国」、中国王朝をモデルにした架空の国です。主人公は槐宗(腹上死した先帝の後を継いだ、素乾国の帝王)の後宮に入った田舎娘・銀河。彼女を待ち受ける宮中の生活とは? そして戦う相手とは?アニメにもなった、歴史系ファンタジー小説です。

「中国王朝をモデルにしたファンタジー」だなんてある種アニメみたいな設定を、がちがちの小説文体で描く。そのギャップに、私たち読者はくらりとノックアウトされてしまうのです。
アホかと思うような設定たちをもって、歴史・人文学・SF・ファンタジー・ロマンス・ヒューマンその他もろもろの背景知識すべてを装置として使って、面白い小説を書き上げる。そんな酒見賢一の基本姿勢が、『後宮小説』には反映され尽くしているように感じます。

読んでいるうちに、どうしても「おおお、面白い」と口角があげざるをえない。
すっとんきょうで、だけど笑えて引き込まれる物語を読みたいときに! おすすめの小説です。

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