月間ブックレビュー 三宅香帆の今月の一冊〈2018年9月月間人気書評ランキングより〉

こう見た!本が好き!2018年9月ランキング

現代の海外小説が多いですね! ロシアの大作家ドストエフスキーや、韓国人作家のキム・ヨンハ、ドイツ人作家のニーナ・ゲオルゲ、イギリス人作家ジョン・ウィンダムなど、様々な国の作家さんがいらっしゃるのが素敵。その中でランキング5位以内に入ってる日本人作家が手塚治虫と横山秀夫というのも、なかなか渋くて最高ですね……。『火の鳥』は教科書に載せるべき名作だと思いますまじで。教科書に載せるにはちょっと尖ってるけど。

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三宅香帆の今月の1冊『夜の庭師』


書籍:夜の庭師(創元推理文庫)
(ジョナサン・オージエ/ 東京創元社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/243100/

選書理由

堂々の一位なので! ということもありますが、主人公が「ジャガイモ飢饉時のアイルランドからイギリス本国へ逃げて来た姉弟」であると聞いて、私の「おねーちゃんセンサー」が動いたからです……。自分が姉なのもあって、おねーちゃんが主人公の物語がなんか好きなんですよね。センサー動いてしまう。現実はお姉ちゃんらしい振る舞いは一切しないんですけど。物語は好き。

ブックレビュー

『夜の庭師』を読んだ時、「あ、この感じ、なつかしいな」と思った。
物語の舞台はヴィクトリア朝の英国。ジャガイモ飢饉時のアイルランドを離れ、モリ―とキップの姉弟は食べ物と仕事を得るために英国に渡る。巨大な木を有するウィンザー家の屋敷で奉公することになったふたり。しかし屋敷には、とある秘密があった……。
『夜の庭師』の物語そのものも面白いけど、それ以上に、むかし読んだイギリスの小説や児童文学がふと思い出されて楽しい。『秘密の花園』、『オリバー・ツイスト』、『ジェーン・エア』、『嵐が丘』、『ノーサンガー・アビー』……。読んでいるうちにそれらの物語の記憶がふわふわと蘇ってくる。
たとえば『ハリー・ポッター』はこれまで紡がれてきた様々な物語の良質なリバイバルのように感じるけれど、この『夜の庭師』もまた、イギリス小説の古き良き伝統の素敵なリバイバルのように見える。お屋敷をくぐり抜け、夜の森に分け入り、一見恐ろしく見える主人の秘密を知る。魔法や、妖精や、鍵や、幽霊や、闇夜のことをちゃんと信じている人々の物語。歴史とファンタジーが上手に溶け合わさる世界。

もちろん、大人になった今となっては、児童文学を浴びるように読んでいた頃よりもずっとファンタジーの力を借りることが少なくなった。
幽霊や魔法の力よりも、グーグル検索やSNSの評判や学術書のほうがよっぽど頼りになってしまう。ファンタジーの世界に浸ることが、なんだか身近なことではなくなってしまった。
だけど、だからってこの世からファンタジーの力が消えたとは思わない。
「おもしろい物語を聞かせてもらったお礼に、喜んで部屋と食事を提供してくれるひとは、たぶんたくさんいるんじゃないかな」――主人公たちは、物語の最後にそう言う。
ならば私たち大人は、面白い物語を読み語る子どもたちに、部屋や食事をあげられるようになりたい。子どもの頃にもらったたくさんのファンタジーを抱えたまま大人になって、そして私より小さい子どもたちがまたファンタジーの世界に入ることができるように。現実の世界が大変でも、考え方ひとつ工夫すればいいんだよ、と言えるように。どこかにいるモリ―とキップのような姉弟を助けられるように。

たくさんのイギリス文学の「入り口」となる『夜の庭師』は、ディズニーによる映画化も決まっているらしい。たくさんの子どもに広がって、そのファンタジーの力がまた子どもたちをわくわくさせるといいな、と思う。

『夜の庭師』を読んだ人が次に読むべき本

『秘密の花園』

書籍:秘密の花園
(バーネット,土屋京子(翻訳)/光文社)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/42326/

〈おすすめポイント〉『夜の庭師』と同じく、イギリスのお屋敷を舞台にした児童文学。主人公のタフさにほれぼれ。

『ノーサンガー・アビー』

書籍:ノーサンガー・アビー
(ジェイン・オースティン,中野康司(翻訳)/筑摩書房)

書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/16138/

〈おすすめポイント〉お屋敷を舞台に、ゴシック・ホラー! 19世紀の小説なのに、ドタバタヒロインが可愛くて身近に感じる。

三宅香帆さんのプロフィール

1994年生まれ。高知県出身。
京都大学大学院人間・環境学研究科に在籍中。
大学院にて国文学を研究する傍ら、天狼院書店(京都天狼院)に開店時よりつとめた。
2016年、天狼院書店のウェブサイトに掲載した記事「京大院生の書店スタッフが「正直、これ読んだら人生狂っちゃうよね」と思う本ベスト20を選んでみた。 ≪リーディング・ハイ≫」が2016年年間総合はてなブックマーク数 ランキングで第2位に。選書センスと書評が大反響を呼ぶ。
著書に外国文学から日本文学、漫画、人文書まで、人生を狂わされる本を50冊を選書した『人生を狂わす名著50(ライツ社)がある。

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わたしの咀嚼した本、味見して。
https://cakes.mu/series/3924
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https://m3myk.hatenablog.com/

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