月間ブックレビュー 三宅香帆の今月の一冊〈2018年10月月間人気書評ランキングより〉

こう見た!本が好き!2018年10月ランキング

新刊を売っている本屋では見られないけど、実は隠れた名作、という本が多くて素敵……!1位は『幸福の王子』を曽野綾子さんが訳した本。『幸福の王子』って名前やあらすじは知っていても、実際に読んだことのある方は少ないのでは? こうやって古典の新訳が広まっていくと楽しいですね。

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三宅香帆の今月の1冊『文学賞メッタ斬り!』


書籍:文学賞メッタ斬り!
(大森望、豊崎由美/PARCO出版)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/153829/

選書理由

中学生の時に『ダ・ヴィンチ』を読んでいて、2人の連載が大好きだったのです~。こんなに売れた「文芸批評」も珍しい。あらゆる文学賞や文学作品に対する批評のみならず、出版裏話が聞けるところが楽しい。小説好きの人に一度は読んでほしい本です!

ブックレビュー

書評を書いていると、つくづく実感する。
世の中に出ている大半の本(つーか小説)って、面白くないよなぁ、と……。
まじで身も蓋もない実感なのだけど。でもやっぱり思う。小説や物語が面白いってこと自体ものすごいことで、大半の小説って実は面白くないんじゃないか!? と。

これって珍しいことだ。だってたとえば売られているチョコレートって、大抵おいしい。もちろん製菓会社さんの尽力ゆえだと思うけど、そもそもチョコレートっておいしいのが普通。その中で味の好みだったりアレンジの変化だったり、工夫を凝らすことによって売れたり売れなかったりする。
けど、本って、ただ作っただけじゃおいしくならないのだ!!
だからこそ「珍しく面白かった本」をちゃんと評価し、「ねえこの本面白かったよ!」って言う人と「ねえこの本もっと評価しようよ!」って言う文学賞が、世の中には必要なのだろう。

しかし何の因果か、出版業界のブランディングが上手いのか、普段みんな「本は基本的に面白い」っていう前提を持っている気がする。「本は面白いけど読む暇がないよね~」とか、「面白いけど、読む人が少ないから売れないよね」とか。
ちがうよ! 本、基本的に面白くないよ!! 面白いのって少ないよ!!! ――抑圧されたそんな叫びを表に出し、「えっこの本、面白くないんですけど!?」とはっきり言ってくれる本。それがこの本、『文学賞、メッタ斬り!』だ。

本書は編集者と書評家という肩書をもつ読書家の二人が、出版業界裏話、文学賞に対するツッコミを語りながら進む。テンションはさながら「本のワイドショー」。お行儀のいい読書なんて、つまらんよな! 私は笑いながら読んでしまう。「ちょっとこの選考委員どうなってんの!?」と叫ぶ2人の声に、すっきりと浄化された気分を味わう。そして「この作者は天才!」と褒めそやす声に、興味を惹かれる。

なぜ面白くない本が多いのに私たちは本を読むかというと、やっぱり、面白い本は面白いからだ。すごく簡単な答えだけど。
数少ない「面白い本」は、そのへんの「面白い映画」や「面白い漫画」より、やっぱりずっと面白い。そう思えるからこそ、私は本を読んでいる。
だからこそ、面白くない本には妥協しないで「面白くない!」って言うべきなのだ。ちゃんと面白い本を埋もれさせないために。

面白くない本は面白くないし、面白い本は面白い。そう言ってはじめて、世の中の書評は成り立つ。
ぜひ『本が好き!』レビュアーの方にも読んでほしい一冊です!

『文学賞、メッタ斬り!』を読んだ人が次に読むべき本

『趣味は読書。』

書籍:趣味は読書。
(斎藤美奈子/筑摩書房)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/177540/

〈おすすめポイント〉ベストセラーをぶった斬る斎藤美奈子の手つきにほれぼれ。こんなにスカッとする批評ってあるのか!?

『短歌があるじゃないか。 一億人の短歌入門』

書籍:短歌があるじゃないか。 一億人の短歌入門
(穂村 弘、東直子、沢田 康彦/角川ソフィア文庫)
書籍詳細URL:https://www.honzuki.jp/book/271467/

〈おすすめポイント〉『文学賞メッタ斬り』の2人のノリが好きな人にぜひ。三人の歌人が、素人の歌にやいやい言ってく。短歌の読み方も詠み方も分かります!

三宅香帆さんのプロフィール

1994年生まれ。高知県出身。
京都大学大学院人間・環境学研究科に在籍中。
大学院にて国文学を研究する傍ら、天狼院書店(京都天狼院)に開店時よりつとめた。
2016年、天狼院書店のウェブサイトに掲載した記事「京大院生の書店スタッフが「正直、これ読んだら人生狂っちゃうよね」と思う本ベスト20を選んでみた。 ≪リーディング・ハイ≫」が2016年年間総合はてなブックマーク数 ランキングで第2位に。選書センスと書評が大反響を呼ぶ。
著書に外国文学から日本文学、漫画、人文書まで、人生を狂わされる本を50冊を選書した『人生を狂わす名著50(ライツ社)がある。

Twitter>@m3_myk
cakes>
わたしの咀嚼した本、味見して。
https://cakes.mu/series/3924
Blog>
https://m3myk.hatenablog.com/

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